解説
圧力(気圧・水圧)とは
空気にも重さがあります。地上の私たちは、上に積み重なった空気の重さで、1cm²あたり約1kg の力で押されています。これが1気圧。大人の体の表面全体では約18トン分ですが、体の中からも同じ力で押し返しているので感じません。高く登るほど上の空気が減るので、気圧は下がります。エベレストの山頂では約3分の1、宇宙ではほぼ0です。
水は空気よりずっと重いので、10m 潜るごとに約1気圧ずつ増えます。マリアナ海溝の底では約1,100気圧。1cm²に約1トンの力です。
気体は押されると縮む
閉じこめた気体の体積は、まわりの圧力に反比例します(ボイルの法則)。2気圧なら半分、10気圧なら10分の1。風船・ペットボトル・ピンポン球・ポテトチップスの袋・発泡スチロールやマシュマロの泡・人の肺・魚のうきぶくろは、中に気体があるので、深い海では縮み、高い空ではふくらみます。
水や体の大部分のように気体が入っていないものは、圧力が1,000倍になっても、ほとんど形が変わりません。深海の生き物がぺしゃんこにならないのはこのためです。
深海で「ギュッ」とつぶれるもの、つぶれないもの
海溝の底の圧力は約1,100気圧。1cm²に約1.1トン、人の体の表面全体では約2万トン分の力です。それでも、水のように中まで詰まったものは、まわりから同じ力で押されるだけで、縮むのは数%です。押す力そのものより、中と外の圧力の差がものをこわします。
差ができるのは、中に気体があって、その気体を閉じこめている入れ物です。うすいペットボトルや風船は、気体が縮むのに合わせてすぐにつぶれます。ピンポン球のように形を保とうとする殻は、しばらく持ちこたえてから一気にへこみます。風船の空気は海溝の底で約530分の1、ペットボトルの500mLの空気は1mL足らずになります。
深海の調査船や潜水艇は、中を1気圧に保つため、厚い金属やガラスの球で人を守っています。殻がこわれると、中の空気の分だけ一瞬でつぶれます。
高い所で水が早く沸くわけ
水の表面からは、いつも水の粒が飛び出そうとしています(蒸気圧)。この力がまわりの気圧に勝つと、水の中からも泡ができて沸きます。気圧が低いと、低い温度で勝てるので、早く沸きます。富士山頂では約87℃、エベレストでは約71℃。
高さ約19km では体温の37℃で沸きます(アームストロング限界)。宇宙では、水は沸きながら熱をうばわれて凍ります。反対に深い海では沸く温度が上がり、約2,200mより深いと、どんなに熱しても泡を立てて沸くことがなくなります(超臨界水)。
宇宙で人はどうなる?
映画のように体が破裂したり、一瞬で凍ったりはしません。でも空気がないので、10秒ほどで意識を失います。体の水分が沸いて体がふくらみ、息を止めていると肺が破れます。早く空気のある所へ戻せば、助かった例もあります。
宇宙服は、体のまわりに空気の圧力をつくって、体を押してくれる「小さな宇宙船」です。
深海の生き物
深海魚の多くは、うきぶくろを持たないか、中を油などで満たしています。体の中に気体がなければ、高い圧力でもつぶれません。それでも、圧力は体の中のたんぱく質の形をゆがめます。深海魚は TMAO という物質を体にためて、たんぱく質を守っています。
うきぶくろのある魚を深い所から急に引き上げると、気体がふくらんで、胃が口から押し出されることがあります。
このアプリのしくみと簡単にしたところ
空の気圧と気温は「標準大気」(U.S. Standard Atmosphere 1976。平均的な空のモデル)。86km より上は表の値です。実際の気温は季節や場所で大きく変わります。海の圧力は、海洋学で使う深さと圧力の式(Saunders 1981。深いほど海水が縮んで重くなる分と、緯度による重力のちがいを含む。マリアナ海溝の緯度で計算)から。水温はマリアナ海溝の近くの外洋の目安です。
海の中の色: 水は赤い光を強く吸い(1mごとに約3分の1が吸われる)、青い光はあまり吸いません。そのため深くなるほど赤いものは黒っぽく見えます。目の慣れの分を入れて、モノの色を変えています。約250mより深い所は日光がほとんど届かないので、潜水艇のライトで照らしたようすにしています。
水が沸く温度は、水の蒸気圧の式(Wagner と Pruss の式)から求めています。気体の体積はボイル・シャルルの法則で、深海の高い圧力では窒素の値(NIST)で直しています(1,000気圧近くでは、計算の約2倍の体積になる)。
簡単にしたところ: 運ぶあいだに温度は変わらないとしています(気体の体積だけ、その場所の温度を使う)。風船が割れる・袋が破れる・ピンポン球がへこむ・カップの縮み方・マシュマロの泡は、実例や計算に合わせた推定の値です。絵の大きさは実物の寸法ですが、つぶれたときのしわの形などは目安です。その場所に置いた瞬間のようすで、長い時間がたったときのこと(減圧症、高い山に体を慣らすことなど)は文章で書いています。
学習用の目安です。登山・潜水・健康の判断には使えません。
おもな出どころ
- U.S. Standard Atmosphere 1976(NOAA・NASA・米空軍): 空の気圧と気温
- Saunders(1981)「Practical conversion of pressure to depth」Journal of Physical Oceanography: 海の深さと圧力
- Wagner と Pruss(2002)Journal of Physical and Chemical Reference Data(IAPWS の水の性質): 水の飽和蒸気圧の式
- NIST Chemistry WebBook(窒素の性質。Span ほか 2000 の状態式): 高い圧力での気体の縮みにくさ
- アメリカ連邦航空局(FAA)AC 61-107B: 高さごとの、意識を保てる時間
- NASA: 宇宙での体のようす、1966年の真空室の事故(意識を保てたのは約14秒)
- 素潜りの記録 214m: 2007年、ノーリミット種目(AIDA の記録)
- Gerringer ほか(2017)Zootaxa: マリアナスネイルフィッシュ(約6,000〜8,100m)
- 西オーストラリア大学・東京海洋大学(2023年発表): 魚の最深記録 8,336m(2022年、伊豆・小笠原海溝で撮影)
- Yancey ほか(2014)PNAS: 深海魚の TMAO と、約8,200mより深くは魚がすめないという説
- Jönsson ほか(2008)Current Biology: クマムシを宇宙空間に10日間さらす実験(FOTON-M3、2007年)
- Seki と Toyoshima(1998)Nature: 乾眠したクマムシが約6,000気圧でも生きていた
- 風船・袋・マシュマロなどの変わり方は、実例と計算から決めた推定の値です
使っているもの: 文字に Dela Gothic One・Zen Kaku Gothic New・IBM Plex Mono(SIL Open Font License)。