しくみと本当の話
虫が「慣れて強くなる」のではない
スプレーをかけられた虫が、だんだん薬に慣れていくわけではありません。はじめから、まれに薬が効きにくい遺伝子を持つ虫がまじっています。薬が効く虫ばかりが死ぬと、残った虫の子には、その遺伝子を持つものが多くなります。これを何世代もくり返すと、ほとんどが効きにくい虫になります。これが自然選択による進化です。ここでは、あなたのやり方が「選ぶ側(環境)」になっています。
はじめの1世代目にも、殺虫剤に強い遺伝子・糖ぎらいの遺伝子を持つ虫が、それぞれ数匹だけいます(「虫を性質で色分け」で探せます)。
4つの性質
警戒心: 強いほど、すき間から出てくるのがまれで、外にいる時間も短い。叩かれにくいかわりに、食べる量が減って子が少なくなります。
危険の察知: 鋭いほど、遠くのスリッパの動きや霧に気づき、すぐ逃げます。かわりに、何もないのにびくっと逃げ帰ることも増えます。本物のゴキブリは、おしりの先の2本の突起(尾角)の毛で空気の動きを感じて逃げます。
殺虫剤に強い: 神経のスイッチ(ナトリウムチャネル)の形が少しちがうと、ピレスロイドという種類の殺虫剤が効きにくくなります(kdr と呼ばれる)。この遺伝子は2本そろうと大きく効きます(1本では少しだけ)。
糖ぎらい: 毒エサの甘み(ブドウ糖)を、苦いと感じて食べない。1本でもかなり効きます。かわりに育ちが遅く、交尾がうまくいかないことがあります。
強い性質には、それぞれ代わりの損があります。道具を使わない世代が続くと、損のぶんだけ、少しずつ減っていきます。ただし、全部の虫が持つようになってしまうと、比べる相手がいないので、やめてもなかなか戻りません。
片づける・ふさぐ
食べこぼしを片づける・すき間をふさぐのは、薬を使わない対策です。薬なら、効かない遺伝子を持つ虫が生き残って増えますが、食べものや住みかがないことは、遺伝子ではかわせません。本物の虫の退治でも、薬だけでは解決せず、片づけとすき間ふさぎが大切だとされています(カリフォルニア大学の IPM の手引き)。
このゲームでは、食べこぼし1か所で1晩に虫20匹ぶんが満腹になれます。食べられなかった虫は、子が少なくなります。
本当にあったこと
毒エサを食べないゴキブリ: 1980年代、ブドウ糖で虫を引きよせる毒エサが広く使われました。1993年、アメリカで、ブドウ糖を食べないチャバネゴキブリの集団が見つかりました。ほかの糖(果糖など)は食べます。親から子へ伝わる性質で、主に1つの遺伝子で決まります。2013年の研究で、この虫ではブドウ糖が苦味を感じる神経を刺激することが分かりました。2022年の研究では、糖ぎらいのメスが、交尾の前にオスがくれる甘い贈りもの(唾液でブドウ糖に変わる)をいやがって、交尾がうまくいかないことがあると分かりました。
殺虫剤が効かないゴキブリ: ピレスロイドが効きにくいチャバネゴキブリは世界じゅうで見つかっています。2019年の研究では、実際のアパートで薬の使い方を変えて数世代を追い、効きにくさが短い間に強まることや、1つの薬で強くなると別の薬も効きにくくなる(交差抵抗性)ことを報告しています。
すばやく逃げる: ワモンゴキブリは、ヒキガエルの舌がとどく前の空気の動きを感じて逃げはじめます(1978年の研究)。
簡単にしたところ
1回の夜(40秒)を、1世代(約3か月)の間の退治をまとめたものとしています。10夜は約2年半です。本物のチャバネゴキブリは、1年に3〜4世代、1匹のメスが卵のさやを4〜8個(1つに30〜40個)産みます。ここでは子の数を「食べた量」から決め、台所に住める数を80匹までにしています。
警戒心と察知の強さ・効き目の数字、代わりの損の大きさは、このゲームのための仮定です。本物の殺虫剤への強さには、kdr のほかに、薬を分解する力などたくさんのしくみがあります。毒エサは本物では数時間〜数日かけて効きますが、ここでは数秒です。虫は見やすいように大きく描いています。スリッパが落ちるまでの時間や、虫の反応の時間も、遊べるようにゆっくりにしています。
おもな出どころ
- Silverman, J. & Bieman, D. N. (1993) Glucose aversion in the German cockroach, Blattella germanica. Journal of Insect Physiology 39.
- Wada-Katsumata, A., Silverman, J. & Schal, C. (2013) Changes in taste neurons support the emergence of an adaptive behavior in cockroaches. Science 340: 972–975.
- Wada-Katsumata, A., Hatano, E., McPherson, S., Silverman, J. & Schal, C. (2022) Rapid evolution of an adaptive taste polymorphism disrupts courtship behavior. Communications Biology 5.
- Schal 研究室(ノースカロライナ州立大学)「Glucose-aversion in cockroaches」(糖ぎらいのものは育ちが遅く、生き残りが少ない)
- Dong, K. (1997) A single amino acid change in the para sodium channel protein is associated with knockdown-resistance (kdr) to pyrethroid insecticides in German cockroach. Insect Biochemistry and Molecular Biology 27.
- Fardisi, M., Gondhalekar, A. D., Ashbrook, A. R. & Scharf, M. E. (2019) Rapid evolutionary responses to insecticide resistance management interventions by the German cockroach (Blattella germanica L.). Scientific Reports 9.
- Camhi, J. M., Tom, W. & Volman, S. (1978) The escape behavior of the cockroach Periplaneta americana II. Detection of natural predators by air displacement. Journal of Comparative Physiology 128: 203–212.
- カリフォルニア大学 UC IPM「Cockroaches(Pest Notes)」(薬だけでは解決しない・片づけとすき間ふさぎ)
- フロリダ大学 IFAS(Koehler, P. G. ほか)「German cockroach」(卵のさやの数、1年の世代の数、成虫の寿命)
警戒心・察知・代わりの損の数字、遺伝子の数(量的な性質は6か所)、食べこぼしの量と強化の数字は、このゲームのための仮定です。
このゲームについて
本物のしくみをもとにした、とても簡単なゲームです。家での虫の退治のしかたの助言ではありません。殺虫剤や毒エサは、製品の表示に従って使ってください。
使っているもの: フォント Dela Gothic One・Zen Kaku Gothic New・IBM Plex Mono(Google Fonts、SIL Open Font License)。ライブラリは使っていません(Canvas 2D)。